シオリは、都会の喧騒を離れ、故郷の小さな町に戻ってきたばかりだった。
町は彼女の記憶の中でいつも静かで、時間がゆっくりと流れる場所だった。
しかし、町の中心にある古い空き家が彼女の興味を引いた。
その家はかつては地元の著名な詩人が住んでいたところで、今では誰も足を踏み入れることはなかった。
ある日、好奇心に駆られたシオリはその空き家の敷地を歩いてみることにした。
草木が茂り、窓ガラスは割れ、扉は朽ちていたが、不思議と彼女はその場所に引き寄せられた。
そして、裏庭に一歩踏み入れた瞬間、目の前に広がる光景に息をのんだ。
そこには、見事に手入れされた花園が広がっていたのだ。
花園は季節の花々で彩られ、色とりどりの花が競うように咲いていた。
驚いたシオリがさらに奥へと進むと、花園の中央で一人の老女が花の手入れをしていた。
老女は詩人の未亡人、カナエだった。
彼女は夫の死後、世間から隠れるようにこの家でひっそりと暮らしていた。
カナエはシオリに話し始めた。
この花園はかつて彼女の夫が詩のインスピレーションを得るために作ったもので、夫が亡くなった今でも彼女にとって大切な場所だという。
花々は彼女の孤独を癒し、亡き夫への愛を育み続ける手段だった。
シオリはカナエの話に心打たれ、彼女を手伝うことを申し出た。
二人で花園の手入れをするうちに、シオリは自分の中に新たな夢を見つける。
彼女はこの美しい花園を町の人々にも開放し、詩人の遺した美を共有することを決意した。
花園はやがて町の隠れた名所となり、多くの人々が訪れるようになった。
詩人の遺した美が、カナエとシオリの手によって新たな命を吹き込まれ、町の新たなシンボルとなった。
空き家の花園は、過去と未来を繋ぐ場所として、多くの人々に愛され続けたのだった。
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