エリナは小さな町の古びたレコード店を経営していた。
店は彼女の祖父が若いころに開いたもので、古くからの住人に愛されていたが、デジタル音楽の普及により、訪れる客は年々減少していた。
エリナ自身も現代の音楽トレンドからは少し離れたところにいたが、彼女にとってレコードはただの音楽メディアではなく、人々の人生の物語を綴った時間のカプセルだった。
ある冬の日、店の奥でひっそりと埃をかぶったレコードがエリナの注意を引いた。
それは表面に細かな傷があり、ラベルも色褪せていたが、彼女はそれをデッキにセットし、針を落とした。
流れ出したのは、懐かしくもありながらどこか新鮮なメロディで、エリナはその音楽に見覚えがあった。
それは幼い頃、祖父が店でよくかけていた曲だった。
そのメロディを聞きながら、エリナは思い出した。
祖父が亡くなる前、彼女に「この曲は特別だ」と言っていたことを。
しかし、何が特別なのか、祖父は教えてくれなかった。エリナはレコードの出所を探るべく、店の古い記録を辿り始めた。
調査を進める中で、エリナはそのレコードが地元出身の忘れ去られた作曲家によって作られたものであることを突き止めた。
作曲家は若くして亡くなり、その才能もろとも忘れ去られていたが、彼の曲はエリナの祖父にとって大切なものだったのだ。
エリナは、このメロディを町に取り戻すため、小さなコンサートを企画した。
コンサートでは、地元のミュージシャンがその古いレコードの曲を演奏し、祖父と作曲家の話を聞かせた。
このイベントがきっかけで、作曲家の音楽に新たな光が当てられ、彼の忘れられた才能が再び評価され始めた。
コンサートの夜、エリナは祖父の古いレコードプレーヤーの前で立ち、流れるメロディに耳を傾けながら、祖父と作曲家、そして音楽が時間を超えて人々を繋ぐ魔法に感謝した。
そして彼女は、このレコード店を続けることで、更に多くの忘れられたメロディを世に送り出す使命を感じたのだった。
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