ノリコは、幼い頃から花が好きで、地元の花屋で働いていた。

彼女にとって花は、言葉にならない感情を表現する手段であり、多くの人々の人生の節目で彼女の手から送り出された花束は、常に愛と希望を運んでいた。

しかし、ノリコ自身は長年、深い悲しみを胸に秘めていた。

若い頃に失った最愛の人、ケンジへの未練が、彼女の心の隅に残っていたのだ。

ケンジとの突然の別れは、ノリコの心に深い傷を残し、それ以来、彼女は誰とも心を通わせることなく、孤独に生活を送っていた。

ある日、ノリコはケンジの命日に合わせて、彼が愛した花々で花束を作り、彼の墓前に手向けることにした。

彼が最も好きだった白いカーネーションと青いデルフィニウムを中心に、優しい色合いの花々を丁寧に選んだ。

花束を作りながら、彼女はケンジとの思い出を静かに振り返った。

墓地に到着すると、ノリコはそっと花束をケンジの墓石に置いた。

風が吹き抜ける中、彼女は久しぶりにケンジに話しかけた。

「ケンジ、ずっと忘れられなかったよ。でも、もう大丈夫。君の好きだった花たちが、私を支えてくれたんだ。」

その時、偶然にもケンジの兄であるタケシが墓参りにやってきた。

二人は何年も会っておらず、タケシもノリコを一目見て、驚きと共に暖かく迎え入れた。

タケシはノリコにケンジが生前、彼女のことをどれほど愛していたかを話した。

彼女は涙を流しながら、ケンジへの愛が決して一方通行ではなかったことを知った。

タケシの話を聞いたノリコは、ケンジへの感謝と共に新たな一歩を踏み出す決意を固めた。

彼女は花屋を続けながら、ケンジと共有した愛を花を通じて多くの人に伝えていくことを誓った。

花束は最後ではなく、新しい始まりの象徴となった。ノリコの人生に再び色が戻り始めた瞬間だった。