祖父が入院したのは、春が始まる少し前のことだった。
幼い頃から、僕にとって祖父は大きな存在だった。
祖父の家に行くと、いつもお菓子をくれたり、庭で遊んだりと、一緒に過ごせて楽しかったです。
しかし、祖父は年々病気がちになり、退院を繰り返すようになった。
医師からも「春までは持たないかもしれない」と言われ、家族は覚悟をしていた。
もう長くないことを悟っていたか、穏やかな表情で「みんなに迷惑を気にしないな」と言うことが多くなっていた。
その年、僕が病院にお見舞いに行った時、祖父が僕にこう言った。
「今年も桜が見たいなぁ。最後にもう一度、満開の桜を見られたらいいのに」
私は何も言えずに、ただうなずくしかなかった。
季節はまだ寒く、桜が咲くには少し早い時期だった。。
そして、ようやく春が来て、桜が咲き始めた頃、祖父は一度だけ外出許可をもらって、みんな家族と一緒に病院の近くの桜並木を歩くことになった。
祖父は桜を静かに笑ってました。
「きれいだなぁ。これが最後に見られてよかった」
桜の花びらが風に散って、祖父の肩や手にひらりと落ちた。
その時、僕は何もできず、ただ隣で祖父の姿をじっと見ていた。
そして、それが祖父と一緒に最後に見たの桜になった。
祖父が亡くなってから数年が経ちましたが、桜の季節が来るたびにその時の光景がよみがえってきました。
桜が咲くたびに、僕は祖父のことを思い出し、その教えを胸に生きている。
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