父は、僕が幼かったころになくなった。
そのため父との思い出はあまりないが、父が毎日快適に腕をつけていた古い腕時計のことだけは、なぜ覚えている。
その腕時計は、父が若い頃に購入した大切なもので、僕が小さい頃に
「これはいつか君に見てから、大事にしてくれよ」
と言っていた。 病気であっという間になくなった父
大人になってから、いつか、母がそっと父の形見としてその古い腕時計を渡してくれた。
僕はその時計を手にした瞬間、元気だった頃の父の笑顔と、僕を見守ってくれていた暖かな眼差しを思い出した
私はそれ以来、大切なシーンでは必ずその腕時計をつけるようになった。
面接の日、仕事で大事なプレゼンがある日、そして新しい道を選ぶと決めたとき、いつも父の時計が僕の手首にありました。
「父さん、僕、ちゃんとやっとるで」
その古い時計を見るたびに、僕は心の中で父にそう伝えていた。
腕時計はただの時間を示す道具じゃなく、父がそっと僕を支え、背中を押していた
今でも腕時計をつけると、不思議と父の声が聞こえるような気がする。
僕の手首で時を刻むその先に、父と僕の絆を感じさせてくれる、大切な音となっている。
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